グアテマラとシナモンロール

今日で妊娠5ヶ月と10日になる。
赤ちゃん(以下ピッピさん)の胎動はまだない。ないというか、感じてないだけか。
それでも日に日に出てくるお腹を見ていると、すくすく育っているらしいのがわかる。
早く自分以外のものの動きを自分の体の中で感じる「あっ!」という感じを味わってみたい。



妊娠してからというもの眠りが浅く、もともと夢ばかり見て深くはない眠りの私だが、最近もよく夢を見る。
昨日は、なぜか水深何十メートルかのプールの中で、天井と水面が10センチあるかないかという特殊な(そして過酷とも思える)状況で過ごす夢を見た。
プールの底へ潜っては、また息継ぎの為に10センチほどの空間に顔を出し酸素を吸ってはまた潜る。
そんなことを繰り返す夢だった。

だけどなぜか息苦しさはなく、むしろ水中にいる間は心地が良かった。
起きてから、「羊水の中にいるピッピさんはあんな気持ちなのかな」と思った。



妊娠5ヶ月に入ってからというもの、予定がある日以外はほぼ家にいる。
衣替えとリビングの書類や、ぐちゃぐちゃだったクローゼットの整理整頓をしてしまってから、なんだか気持ちがひと段落してしまってなにかやる気が出ない。

今日もお気に入りの緑のソファの上でボーっとしながら、ふと思い立って友人に借りた片桐はいりのエッセイ「グアテマラの弟」を読んでみた。

はいりさんはとても好きな役者さんでもあり作家さんでもある。
大好きな映画「かもめ食堂」の撮影ででフィンランドを訪れた際の旅エッセイ
「わたしのマトカ」以来のファンだ。
はいりさんの文章は、1行目を読んだ瞬間から、はいりさんのことを以前からよく知っている様な、親しい友人の様に愛着を持ってしまう不思議な力がある。

私もはいりさんと一緒にグアテマラに旅している様な気分で楽しく本を読んでいたが、半ば頃でなんとなく眠くなってしまい、体の声に逆らわずそのまま昼寝をすることにした。
(私は妊娠してから、なるべく頭で考えることよりも体が発するサインに忠実に行動する様にしている。その方が体にも心にも良い様な気がするから。)



そして、また夢を見た。
今度は、たまたま見つけたどこの街かわからない街のスターバックスに並んでいた。冷たいカフェオレを飲もうと、暑い日のせいか長蛇の列ができている所に仕方なく並び、ようやく順番がまわってきた時レジの前の「16時までコーヒーは準備できません」の文字に気づいた。あれ?っと思った私は、店員に「16時までコーヒーできないんですか?」と直接尋ねると、若い女性の店員はそっけなく「はい」と答えた。
現実ならこんなことはあり得ないが、夢だからしょうがない。
かなりイラっとした私は、店員の返事を聞き終わる前に踵を返し早歩きで分かれて設置してあるスイーツコーナーへ行った。

「コーヒーがダメならシナモンロールだけでも買ってやる!」と思い、行ったがいいがそこも並んでいた。
さっきのイライラが収まらない+空腹でプッツンしてしまった私はその辺のイスを振り回しながら前に並んでいるお客さんをなぎ倒し、1人レジの前を陣取り「シナモンロール一つ‼︎」と叫ぼうとしたその時、レジに居たのは私の大好きな「かもめ食堂」の小林聡美さんだった。



食べ物の恨みはこわい。
特に妊婦の食欲って恐ろしい。普段よりも本能的というか動物的になっているからか我ながら鬼気迫る夢(食欲?)だった。

小林聡美さんはかもめ食堂のサチエさんそのもので、その涼やかな表情を見ると私の尋常でないシナモンロール欲もシュンとしぼんでしまい、結局シナモンロールを食べることができず夢から覚めてしまった。
時計を見ると、もう16時半だ。


いつもちょうど甘いものが欲しくなる魔の時間。やっぱりシナモンロールが食べたい。でも買いに行くのはめんどくさい…

冷蔵庫に友人の夫たちが作ったパンがあるのを思い出した。
失敗した食パンの生地で作ったうずまきの形のパン。
生地の目が詰まりすぎて失敗したと言っていたけれど、私はこの失敗作の生地の食パンがとても好きで、この食パンで作ったフレンチトーストは我ながら最高だった。空気があまり入ってないせいか、独特のモチっとした様な食感がたまらない。

またあえて失敗してもらいたいほどだ。



シナモンロール代わりのシナモンパンは、半分に輪切りにしトーストで焼いてマーガリンを塗ったあと、ハチミツとシナモンシュガーを混ぜて少し水で伸ばしてピーナッツバター状になったそれを塗って食べた。牛乳と共に。




映画「かもめ食堂」の中に名物メニューとして出てくるシナモンロール。映画を観た直後、家でシナモンロールを焼いてしまうほど、この映画とシナモンロールが大好きな私は、「今度作るときはこのハチミツを混ぜたシナモンシュガーを巻いても美味しいだろうな」
と考えながら、
グアテマラからスターバックス、そしてフィンランドから自宅へと弾丸の旅をした様な気分になり、お腹とシナモンロール欲を満たされた私は、まだ途中だったグアテマラへの旅を再開することにする。


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